コトブキツカサさんが映画に登場する人物と建物の素敵な関係をツキイチ連載 映画における住居の風景

第五回「大人ドロップ」

公開日:  最終更新日:2016/08/01

【大人ドロップ】

【監督】飯塚健
【主演】池松壮亮、橋本愛
高校最後の夏休み直前、親友のハジメ(前野朋哉)に頼まれ、彼が思いを寄せている同級生の入江杏(橋本愛)とのデートをセッティングしようとする浅井由(池松壮亮)。だが、それが原因で杏を怒らせてしまい、仲直りできないまま夏休みが始まった上に、杏が学校をやめて引越してしまう。由は心にモヤモヤとしたものを抱えた日々を過ごす。一方、大人になるために何かと経験を急ぐ女友だちのハル(小林涼子)からは、年上の彼氏との恋愛相談をもちかけられ、周囲が大人になろうとしていることに由は焦りを感じ始めるが……。

教室で1人運動場を眺める生徒。
帰りがけ人気のない下駄箱。
放課後、校内に流れる「主よ人の望みの喜びよ」など、青春映画の記号が詰まった本作は登場人物達が内包する思春期特有の苛立ちや、どこにぶつけていいか分からないモヤモヤを丁寧に描いています。

10代の揺れ動く心理の上澄みだけをすくった青春映画は正直心が離れてしまいますが、本作は愛する人から「貴方に会えて良かった」と言われる事の喜びが嫌味なく心に染み入るとても深くて切ない物語です。

思い出は美化されるという前提を踏まえて、学校という巨大な建物は多くの人々にとってノスタルジーの象徴ではないでしょうか?
初めて友達が出来たり初めて異性に恋したのが学校というロケーションだったという読者の方も多いと思います。
スペースに人が集まり人が交じり合い物語が生まれる。その舞台が学校という建物なのです。

大人の階段を登ろうとしながらも、モラトリアム的に踊り場で足踏みする学生達を丹念に描いたこの作品を観て、後悔ばかりの人生だからこそ結局その時を生きるしかないと思い知らされました。
青春映画のマスターピースとなりうる作品「大人ドロップ」を是非、体験してみて下さい。

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コトブキツカサ プロフィール

静岡県 富士宮市出身
映画パーソナリティ
日本工学院専門学校(放送・映画科)
 非常勤講師
【テレビ】
Soleいいね!(SBS)他3本
【ラジオ】
コトブキシネマ(文化放送)他2本
【ポッドキャスト】
日映シネマガ
【連載】
プレイボーイ EX大衆
KOUSHO(広昌工業)HP

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