第九回「インサイド・ルーイン・デイヴィス 名もなき男の歌」
第九回「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」
監督:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
キャスト:オスカー・アイザック、キャリー・マリガン、F・マーレイ・エイブラハム、他
1960年代のニューヨーク、冬。若い世代のアートやカルチャーが花開いていたエリア、グリニッジビレッジのライブハウスでフォークソングを歌い
続けるシンガー・ソングライターのルーウィン・デイヴィス(オスカー・アイザック)。熱心に音楽に取り組む彼だったが、なかなかレコードは売
れない。それゆえに音楽で食べていくのを諦めようとする彼だが、何かと友人たちに手を差し伸べられ……。
生活に困窮しているルーウィンが紆余曲折を経て掴んだオーディション。ギターを掻き鳴らし歌い終わった彼にプロデューサーのグロスマンは企画
中の男女ユニットに参加しないかと打診します。
しかし彼は成功と信念を天秤に掛け信念を優先させてしまうのです。
才能があると多くの人が認めているにもかかわらず成功に手が届かず、断腸の思いで仕事を断念した人を数多く見てきました。
「運がなかった…」という一言で片付けるのは簡単ですが、もがき苦しみながら何かに挑戦している時は、足元に目視出来ない成功と挫折が待ち構
えている薄氷の上を歩いているのです。
ルーウィンはお金がなく住む所もないので、友人や知り合いの家を転々としながらノマド生活をしています。
寝起きにアパートの天井を見上げると、そこには常に新鮮で慣れない景色が広がりますが、彼はいつか音楽家と成功して自分の家を持ち、愛する者
と暮らしたいと夢見ているのです。
本作の主人公ルーウィンの生き様は歯痒くもあり憧れでもあります。
旅の途中、車窓から外を眺める彼の目は儘(まま)ならぬ人生を雄弁に語るのです。