第八回「オールド・ボーイ」
第八回「オールド・ボーイ」
監督: スパイク・リー
キャスト: ジョシュ・ブローリン、エリザベス・オルセン、サミュエル・L・ジャクソン、他
1993年10月。泥酔したジョー・デュセットが目を覚ますと、見知らぬ部屋に監禁されていた。何者かが監視しているその部屋では、食事が与えられ、テレビでニュースを見ることも出来た。
そのニュースで彼は、妻が殺害され、自分が容疑者にされていること、幼い娘ミナが養子に出されていることを知る。やがて20年の歳月が流れ、彼は何の前触れもなく解放された。自分は、なぜ20年も監禁され、突然解放されたのか。理不尽な仕打ちに対する激しい怒りが、ジョーを凄絶な復讐へと駆り立てていくが…。
カンヌ国際映画祭に於いて審査委員長であるタランティーノ監督が強力にプッシュした結果、見事グランプリを受賞した不朽の名作として名高い韓国映画「オールド・ボーイ」(パク・チャヌク監督)をリブートした本作は「殺すよりも残酷な復讐」という前作のテーマを力強く踏襲しています。
理由も知らされずホテルの一室に監禁され悶え苦しむ主人公のジョーですが、この作品の大事なディティールは、その不気味で無機質なホテルの部屋です。
精神的に追い詰められるジョーの不安に追い打ちをかけるのが、この凶々しいホテルの存在なのです。
ジョーを演じるジョシュ・ブローリンは肥満体型から筋肉質の体型になるまで体重をコントロールして役へのアプローチを成功させ、時の移り変わりをトレーニングで鍛え上げたその肉体で観客に知らしめます。
精神的極限状態の中、ジョーの幻覚として現れる「にやけた男」はデヴィッド・リンチ監督作「ツイン・ピークス」に登場する「別の世界から来た小さい男」を連想しました。物語のスパイスとして登場するその男を演じたサンキ・リーは本作の監督であるスパイク・リーの実弟。彼の存在が奥深く、そして魅惑的な感情の動線へと観客を導くのです。
人が生きる上でのレーゾンデートル(存在理由)の崩壊を描いた本作。怨念と復讐心が混ざり合い人間の業さえ覆い隠す狂気を目の当たりにして、愛する者に対しての究極の情は時として人を破滅に向かわせると思い知らされました。